「営業にAIを使えと言われても、どの仕事から始めればよいのか」「お客さまの話をAIに入れて大丈夫なのか」「AIが書いたメールで失礼にならないか」。営業のAIの話は、専用のツールや大きな会社の事例が中心になりやすく、少人数の会社が明日から何をするかは見えにくいものです。
この記事では、自治体や医師会、税理士、上場企業などで5,000人以上にAI研修を行ってきたメイカヒットが、営業でAIに任せる仕事の選び方と進め方を解説します。この記事を読むと、商談メモ1つから記録・次の提案・お礼メールの下書きを作る頼み方と、実際の出力の例が分かります。
記事監修者

久保田 亮|株式会社メイカヒット 代表取締役
【経歴・実績】
・自治体・医師会・税理士法人・上場企業などで、のべ5,000人にAI研修
・某教育委員会でAIコーディネーターとして活動中
・マーケターとして500社以上と取引
・元テレビ局の報道記者(5年)
・AIハッカソンで世界1位の実績あり(事業計画ツールを作成)
・AIとマーケティングが学べるサロン「メイカラ」主宰
営業のAI活用とは|AIに任せるのは下書き、決めるのは人
営業でのAIの使い道は、売上の予測や見込み客の絞り込みまで幅広いものです。この記事では、少人数の会社が明日から始めやすい、商談のあとの記録やメールの下書きをAIに任せる使い方を扱います。値引きや納期の約束、送るかどうかの判断は、これまでどおり人が持ちます。
下書きと判断を分ける理由は、AIがもっともらしい間違いを書くことがあるからです。AIの文章は速く出ますが、相手との約束に関わる中身は担当者が確かめてから使います。

中小企業庁の2026年版中小企業白書では、AIを使っている事業者を部門別に見ると、営業・販売・顧客対応部門とバックオフィス部門で「活用している」と答えた割合が高いとされています。AIを使っている会社の中では、営業はよく使われている部門の1つです。一方で、AIを業務で使っていない理由は「活用する業務がイメージできていない」が最も多く挙がりました。
営業でAIに任せられる仕事の見分け方
AIに下書きを任せやすいのは、材料が手元にそろっていて毎回似た形で書く仕事です。営業の場面ごとに分けた例が、次の表です。
| 営業の場面 | AIに任せる下書き | 人が決めること |
|---|---|---|
| 商談の前 | 聞くことの一覧、先方の公開情報の要点のまとめ | どこまで踏み込んで聞くか |
| 商談の直後 | 走り書きのメモから商談の記録を整える | 記録の中身が合っているか |
| 提案の準備 | 提案書の見出しと流れのたたき台 | 金額、納期、値引きの条件 |
| 商談のあと | お礼のメールや次回の日程の連絡の下書き | 送るかどうか、送る相手と時期 |
| 商談の練習 | AIに先方の担当者の役をさせ、質問への受け答えを練習する相手にする | 練習で出た答え方を、実際の商談で使うか |
| 社内への報告 | 週の報告や日報の要約 | どの案件に力を入れるか |
商談の前に先方の業界や会社の公開情報を調べるときの頼み方は、市場調査にAIを使う方法も参考になります。
営業向けのツールの中には、過去の商談の記録から受注の見込みを示す機能を持つものもあります。こうした機能は、顧客管理の仕組み(CRM)に記録がそろってたまっていることが前提です。記録の形がそろっていない会社は、まず下の手順で商談の記録をそろえるところから始めてください。
自分の会社のどの仕事をAIに任せられるかは、次の項目で確かめてください。当てはまる項目が多い仕事ほど、AIに下書きを任せやすい仕事です。
- 同じ形の文章を、週に何度も書いている
- 材料(メモ、メール、過去の資料)が文字で残っている
- 書く人によって、記録の詳しさがばらばらになっている
- 担当者が休むと、どこまで進んだか分からなくなる
- お客さまの名前や金額を伏せても、下書きが作れる
営業にAIを使う手順|商談メモから記録・次の提案・お礼メールまで
はじめに取り組むなら、商談の直後に書くメモ1つから、商談の記録・次の提案のたたき台・お礼メールの3つを作る流れが向いています。材料が1つで済み、毎回くり返す仕事だからです。

商談のあとの仕事をAIに任せる手順を、次の3つの観点から解説します。
・手順1:商談メモを決まった形で残し、商談の記録に整える
・手順2:記録から次の提案のたたき台を作る
・手順3:お礼のメールの下書きを作り、人が確かめて送る
それぞれ見ていきましょう。
手順1:商談メモを決まった形で残し、商談の記録に整える
最初の手順では、商談の直後に「相手の困りごと」「相手が気にしていること」「決まったこと」「次にすること」の4つを書き残してください。相手の会社名やこちらが紹介した内容も、1行ずつ添えておくと記録が正確になります。メモの項目を社内でそろえておけば、AIが整える記録の形もそろいます。
商談を録音し、ツールで文字に起こす方法でもかまいません。ツールの選び方や、議事録を社内で回す方法は、中小企業向けのAI議事録ツールの選び方で詳しく解説しています。録音するときは、相手に伝えてから始めてください。
手順2:記録から次の提案のたたき台を作る
次の手順では、整えた記録をもとに、提案書の見出しと流れをAIに出させます。たたき台に入れるのは、相手が商談で話した困りごとと心配だけにします。
金額や納期、値引きの条件は、たたき台の段階では入れません。社内で決めてから、担当者が書き足す方が安全です。提案の資料を形にするところは、資料づくりに使えるAIも参考になります。
手順3:お礼のメールの下書きを作り、人が確かめて送る
最後の手順は、商談の翌日に送るお礼のメールの下書きです。AIの下書きに、商談で約束していないことが入っていないかを必ず読み直してください。
下書きの言い回しは、自社のふだんの書き方に合わせて直してかまいません。メールの返信を下書きさせる頼み方は、AIでメールの返信を下書きする方法にまとめています。
商談の記録をAIで作る頼み方と出力の例
ここでは、手順1〜3を1回の頼み方でまとめて作らせる例を載せます。メモにないことを推測で足させず、分からない点は【確認】の印と質問の形で出させるのが、この頼み方の要です。
下の【商談メモ】は、説明のために作った架空の例です。当社のお客さまの事例ではありません。
頼み方の例
次の【商談メモ】は、営業担当が商談の直後に書いた走り書きです。これをもとに、次の3つを作ってください。
【作ってほしいもの】
1. 商談の記録:「相手の困りごと」「相手が気にしていること」「決まったこと」「次にすること(だれが・いつまでに)」の4つの見出しで、箇条書きにする。
2. 次の提案のたたき台:提案書の見出しを5つまで並べ、それぞれに書く中身を1〜2行で添える。
3. お礼のメールの下書き:商談の翌日に先方の担当者へ送る、300字ほどのメール。
【条件】
・【商談メモ】に書いてあることだけを使う。書いていない金額・日付・数字・機能・約束を推測で足さない。
・メモから分からないことは、作ったものの中で【確認:〜】と印をつけ、最後に「確認したいこと」として質問の形で3つまで並べる。
・お礼のメールでは、こちらから新しい約束をしない。値引きや納期について、メモにないことは書かない。
・専門の言葉は使わず、営業の経験が浅い人でも読める言葉で書く。
【商談メモ】
・相手:A社(社員30名ほどの部品の卸売り)。出てきたのは総務部長のBさん。
・今の困りごと:見積もりの依頼が電話とメールとFAXでばらばらに来る。担当者が休むと、どこまで返したか分からなくなる。
・Bさんが気にしていること:今の受注の流れを大きく変えたくない。年配の社員が新しい画面に慣れるか心配。
・うちの話:見積もりの依頼を1か所に集めて、返した・返していないが見える仕組みを紹介した。
・決まったこと:次回は社長も同席。次回までに、A社の今の見積もりの流れを図にしたものを、こちらから出す。
・次回の日程:Bさんが社長の予定を確かめて連絡をくれる。
この頼み方を、2026年10月にClaudeの新しい会話で1回だけ実行しました。次の出力の例では、冒頭でメモを書き写した「相手」「相手の困りごと」「相手が気にしていること」を省いています。整えたのは見出しの記号と太字の印だけで、文言は変えていません。
出力の例
■決まったこと
・次の商談には、社長も同席する。
・次の商談までに、A社の今の見積もりの流れを図にしたものを、こちらから出す。
■次にすること(だれが・いつまでに)
・こちら:A社の今の見積もりの流れを図にして出す(次の商談まで)。
【確認:依頼を受けてから返すまでの、今の手順のくわしい中身】
・Bさん:社長の予定を確かめて、次の日程をこちらに連絡する。
【確認:連絡をもらえる時期】
■2. 次の提案のたたき台
1. 今の見積もりの流れ(図)
電話・メール・FAXで依頼が届いてから返すまでを、1枚の図にまとめる。【確認:今の手順のくわしい中身】
2. いま困っていること
依頼がばらばらに届くことと、担当の人が休むと返したかどうかが分からなくなることを、図の上で示す。
3. ご紹介した仕組み
見積もりの依頼を1か所に集め、返した・返していないが見えるようにする仕組みを説明する。
4. 今の流れをなるべく変えない形
今の流れのどこに仕組みが入るかを図で示し、「大きく変えたくない」という心配に答える。
5. 社員の方が慣れられるかについて
年配の社員の方の心配と、社長が気にされる点に答える欄にする。中身は確認してから書く。【確認:社長が一番気にされる点】
■3. お礼のメールの下書き
件名:昨日のお打ち合わせのお礼
A社 総務部 B様
いつもお世話になっております。〇〇の△△です。
昨日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。
見積もりのご依頼が電話・メール・FAXに分かれて届き、担当の方がお休みのときに返したかどうかが分からなくなる、というお話をよく理解できました。今の受注の流れを大きく変えたくないことや、年配の方が新しい画面に慣れられるかというご心配も、大切にうかがいました。
お話ししたとおり、次回までに御社の今の見積もりの流れを図にしてご用意します。
次回は社長様にもご同席いただけるとのこと、ありがとうございます。ご予定が分かりましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします。
■確認したいこと
1. 見積もりの依頼を受けてから返すまで、今はだれが、どんな順番で進めていますか。(流れの図を作るために必要です)
2. 次の日程のご連絡は、いつごろいただけそうですか。
3. 社長は、この話でどんな点を一番気にされそうですか。
出力では、メモにない日程を決めずに【確認:連絡をもらえる時期】と印がつき、お礼のメールにも新しい約束は入りませんでした。最後の3つの質問は、次の商談の前に先方へ確かめておく項目として、そのまま使えます。
自社で使うときは、【商談メモ】の部分だけを入れ替えます。お客さまの会社名や担当者の名前は、上の例のように「A社」「Bさん」に置き換えてから入れてください。
営業でAIを使うときに入れてはいけない情報とつまずくところ
営業の材料には、お客さまの名前や連絡先、取引の条件が多く含まれます。AIに入れる前に、次の表で確かめてください。
| 入れてはいけない情報 | 例 | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 個人が分かる情報 | 担当者の名前、電話番号、メールアドレス | 「Bさん」などに置き換える |
| 取引の条件 | 見積もりの金額、値引きの幅、契約の中身 | 数字を消し、話の流れだけを入れる |
| 相手から預かった資料 | 図面、社内の資料、顧客の一覧 | 中身を伏せて要点だけを書き直す |
個人情報保護委員会は、2023年6月に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を出しました。注意点の1つ目は、会社が個人情報を含む指示をAIに入れるときに、利用目的の範囲内かを十分に確かめることです。本人の同意なく個人データを入れる場合は、そのサービスが機械学習に使わないことなどを確かめる必要があるとしています。
会社のプランや設定による入力した情報の扱いの違いは、ChatGPTの情報漏洩と会社で防ぐ設定で解説しています。
つまずきやすいのは、次の3つです。
- AIの下書きを読まずに送り、商談で話していない約束や数字が混ざる
- メモが短すぎて、AIが足りない部分を推測で埋める
- 担当者ごとに頼み方がちがい、記録の形がそろわない
AIがもっともらしい間違いを書く理由と防ぎ方を知りたい方は、AIの間違いを防ぐ確かめ方をご覧ください。
営業のAI活用を社内に広げる進め方
社内に広げるときは、1人の担当者の1つの仕事から始め、うまくいった頼み方を営業部の全員で使える形に残してください。頼み方とメモの項目を社内でそろえると、担当者が休んでも商談の経緯を引き継げます。担当者が休むと仕事が止まる状態をほかの業務でもなくしたい方は、属人化を解消する手順で詳しく解説しています。
先ほどの白書によると、社員向けに研修会や勉強会を開いている事業者は、開いていない事業者より「想定を超える効果が得られた」「想定した効果が得られた」と答えた割合が高いという結果でした。当社では、営業の頼み方を社内で共有する場を早めに作ることが、使い続けてもらう近道だと考えています。
商談の記録から社内の報告までをつなげて、業務の流れとして自動にする考え方は、中小企業が自動化する業務の選び方で解説しています。
営業のAI活用に関するよくある質問
まとめ:営業のAI活用は商談メモ1つから始めよう
- 営業でAIに任せるのは下書きで、約束や判断は人が持つ
- 任せやすいのは、材料がそろっていて同じ形で何度も書く仕事
- 商談メモ1つから、記録・次の提案のたたき台・お礼メールの下書きを作れる
- 頼み方には、推測で足させない条件と、分からない点を質問で出させる条件を入れる
- お客さまの名前や取引の条件は、伏せてからAIに入れる
まずは、次の商談のあとに4つの項目でメモを書き、この記事の頼み方の【商談メモ】に入れて試してください。
自分の会社ではどの仕事から始めればよいか、次の案内も参考にしてください。

メイカヒットでは、企業向けのAI研修と、AI経営顧問を行っています。
- AI研修:社員の方が安全にAIを使えるよう、入力してよい情報の決め方や設定の確かめ方まで、実際の画面で操作しながら学びます。これまでに5,000人以上が受講し、自治体や医師会、税理士、上場企業などでも研修を行っています。研修の内容を見る
- AI経営顧問:営業・事務・採用・社内の質問への回答など、会社の業務のうちAIに任せられる部分を、会社の仕組みとして作ってお渡しし、社員の方が使えるようになるまで一緒に進めます。
「うちの会社の場合はどう進めればよいか」といったご相談も、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。お問い合わせ種別は「AI導入・研修」を選んでください。

