「税理士の仕事は、AIに取られてしまうのか」「顧問先の資料をAIに入れても、守秘義務に反しないのか」「事務所で使うなら、何から始めればいいのか」。税理士とAIの話は、仕事がなくなるかという不安と、情報の扱いへの心配が混ざって語られがちです。
この記事では、自治体や医師会、税理士、上場企業などで5,000人以上にAI研修を行ってきたメイカヒットが、税理士事務所でのAIの使い方を解説します。この記事を読むと、AIに任せる業務の分け方と守秘義務をふまえた入力のルールの例、所内で始める手順が分かります。
記事監修者

久保田 亮-株式会社メイカヒット代表
【経歴・実績】
・5,000人以上へのAI研修実績
・自治体・医師会・税理士・上場企業などで研修多数
・マーケターとしての取引企業500社以上
・マーケティング/広報顧問累計6社
・自社メディアでの販売実績10億円以上
・Webスクールメイカラ主宰
田中 凌平-株式会社メイカヒット代表
【経歴・実績】
・Notta公式アンバサダー
・AIを活用し生産性300%向上
・日本インタビュー協会認定インタビュアー
・年間150名以上の取材実績
・ラグジュアリーブランドで5年勤務

税理士の仕事はAIでなくならない。AIに任せるのは下書きと整理
税理士法が税理士だけに認める仕事は、AIに置きかわりません。いっぽうで記帳の入力のように、会計ソフトやAIに移っていく作業はあります。AIに任せられるのは文章の下書きや情報の整理で、判断と責任は税理士に残ります。
理由は、税理士法の決まりです。税理士法の第2条は、税理士の業務を税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つと定めています。第52条により、法律に別段の定めがある場合を除いて、税理士か税理士法人でない者はこの業務を行えない決まりです。会計帳簿の記帳の代行は、第2条第2項で税理士業務に付随して行える業務とされ、税理士だけに限られた仕事ではありません。
AIの答えは、もっともらしい誤りを含むことがあります。これをハルシネーション(AIがもっともらしい間違いを書くこと)と呼びます。申告の中身を決めて顧問先に説明する役目は、これからも税理士の仕事です。
いっぽうで顧問先へのお知らせの文や面談の記録の要約、税制の改正の要点の整理などは、AIで下書きを作れます。AIが下書きし、職員が原典で確かめて税理士が判断するという分担が、安全に使う基本の形です。

税理士事務所でAIに任せる業務と、任せない業務
税理士事務所の業務は、AIに任せる部分と人が残す部分に分けて考えると、使いどころが見えてきます。次の表は、事務所でよくある業務を分けた例です。
| 業務 | AIに任せる部分 | 人が残す部分 |
|---|---|---|
| 顧問先へのお知らせ・資料のお願い | 文の下書き、専門用語の言いかえ | 送る中身の確認、顧問先ごとの事情の反映 |
| 面談や打ち合わせの記録 | 名前や数字を伏せたメモをもとにした要約の下書き | 要約の確認、次にやることの判断(録音をそのまま入れるかは、事務所の契約と所内のルールで決める) |
| 税制の改正の情報整理 | 公表された資料の要点の整理 | 国税庁などの原典での確認、顧問先への当てはめ |
| 所内のマニュアル | 担当者の説明を手順の形に整える | 手順が正しいかの確認 |
| 申告書の作成・税務相談 | 任せない(計算の確かめの補助に使う場合も、結果は人が確かめる) | 判断・作成・説明のすべて |
記帳や仕訳には、会計ソフトに備わった読み取りや仕訳の候補の機能を使う事務所もあります。ここでいうAIは、ChatGPTのような文章を作る生成AIのことです。会計ソフトの機能の使い方は、各社の案内に従ってください。
ほかにどんな事務の作業をAIに任せられるかを知りたい方は、AIに任せられる日常業務の例で詳しく解説しています。
税理士がAIを使う前に決める、守秘義務と入力のルール
税理士事務所でAIを使うときは、使い始める前に「何を入力してよいか」を決めておきます。顧問先の情報を扱う仕事だからです。
・税理士法の秘密を守る義務は、職員にもかかる
・入力してよい情報を段階で分ける
・学習に使われない設定と契約を確かめる
それぞれ見ていきましょう。
税理士法の秘密を守る義務は、職員にもかかる
税理士法には、AIへの入力を直接決めた条文はありません(※2026年10月現在)。顧問先の情報をAIに入れてよいかは、秘密を守る義務に触れない形かどうかで、事務所が決める事柄です。
秘密を守る義務は、税理士だけでなく事務所の職員にもかかります。税理士法の第38条は税理士に、第54条は税理士や税理士法人の使用人その他の従業者に、業務で知った秘密を漏らすことを禁じています。
どちらも、辞めたあとまで続く義務です。また第41条の2は、税理士に使用人などを監督する義務を定めています。AIを使うのが職員でも、入力のルールは税理士が決めて、事務所全体で守る形にしてください。
日本税理士会連合会は、2026年9月30日に、会員専用のページで「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」の策定を知らせています。一般向けのお知らせには載っていないため、会員の方はログインして、所属の税理士会の案内とあわせて確かめてください。
入力してよい情報を段階で分ける
入力のルールは、「入力してよい」「名前を伏せれば入力してよい」「入力しない」の3段階で決めると、職員が迷いません。次の表は、所内のルールのたたき台です。
| 段階 | 情報の例 | 扱い |
|---|---|---|
| 入力してよい | 法令や国税庁の公表資料、事務所の案内文のひな形、架空の例 | そのまま入力してよい |
| 名前を伏せれば入力してよい | 顧問先へのお知らせの下書き、面談の記録の要約 | 学習に使われない設定か、法人向けの契約のアカウントでだけ入力する。社名・氏名・住所・口座番号などを【顧問先名】のような印に置きかえ、業種・地域・金額の組み合わせで顧問先が分かる書き方も避ける |
| 入力しない | マイナンバー、申告書や決算書そのもの、通帳の写し、相続の財産の一覧 | AIには入れず、人が扱う |
表は当社が作ったたたき台で、どこで線を引くかは事務所ごとに決めてください。2段目の情報は、次の「学習に使われない設定と契約を確かめる」で決めたアカウントでだけ扱います。迷う情報は「入力しない」の段に入れておき、あとで見直すのが、ルールを早く作るこつです。
2023年6月に公表された個人情報保護委員会の注意喚起は、個人情報を含む内容を入力するときは、利用の目的の範囲内かを十分に確かめるよう求めています。本人の同意なく個人データを入力する場合は、AIの提供元がそのデータを機械学習に使わないことの確認も必要だとしています。
学習に使われない設定と契約を確かめる
入力した内容がAIの学習に使われるかどうかは、契約の種類と設定しだいです。OpenAIの公式ヘルプでは、個人向けのChatGPTの会話はモデルの学習に使われることがあると説明されています。設定の「データ管理」で「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、その後の新しい会話は学習に使われません(※2026年10月現在)。
ただし同じヘルプでは、オフにしていてもAIの回答に高評価や低評価をつけると、その会話全体が学習に使われることがあるとされています。顧問先に関わる会話では評価のボタンを押さないことも、所内のルールに入れておいてください。
同じヘルプでは、一時チャットで話した内容も、モデルの改善には使われないとされています。一時チャットを保存すると通常の会話になり、ふだんの設定どおりの扱いです。
同じヘルプでは、ChatGPT BusinessやEnterpriseなどの法人向けの契約は、初期の設定で学習に使われないとされています。職員が個人のアカウントで使うと、事務所から設定が見えません。使うアカウントと契約も、ルールに書き入れてください。
当社が企業向けに行っているAI研修では、AIの危険を誤情報・情報漏洩・著作権の3つに分けて最初に伝えています。そのうえで、学習に使わない設定を受講者と一緒に画面で確かめます。設定の画面は更新で変わるため、半年に1回など、見直す時期も決めておくと安心です。
社内でAIを使うときの決まりの作り方は、生成AIガイドラインの作り方で詳しく解説しています。
税理士事務所でAIを使い始める4つの手順
税理士事務所でAIを使い始めるときは、全部の業務に一度に広げず、1つの業務から試します。

・手順1:入力のルールを決める
・手順2:1つの業務で試す
・手順3:確かめ方を決める
・手順4:所内で共有する
それぞれ見ていきましょう。
手順1:入力のルールを決める
最初に、前の章の3段階の表をもとに、事務所の入力のルールを決めます。使ってよいAIのサービスと、使うアカウントも同じ紙に書いておきます。
ルールは1枚にまとめ、職員の机から見える場所に貼っておくのがおすすめです。
手順2:1つの業務で試す
試す業務は、顧問先の情報をほとんど使わず、時期ごとにくり返すものから選びます。たとえば、決算前の資料のお願いや、年末調整の書類の案内の文です。
決算前の資料のお願いなら、その月に決算を迎える顧問先の分を続けて下書きし、どの頼み方で手直しが少なくなったかを記録してください。
手順3:確かめ方を決める
AIの下書きを確かめる人と、確かめる中身を決めておきます。確かめる中身は、次の4つが基本です。
- 数字・日付・期限が、元の資料と合っているか
- 税法や制度の説明が、国税庁などの原典と合っているか
- 顧問先の名前などの伏せた印が、送る前に正しく戻っているか
- 税金の計算や判断の答えが、混ざっていないか
AIの誤りの防ぎ方は、ハルシネーション対策のガイドにまとめています。
手順4:所内で共有する
うまくいった頼み方は、所内の共有のフォルダに残し、誰でも使えるようにしてください。頼み方の文と、手直しした点を並べておくと、新しい職員も同じ品質で使えます。
職員のあいだでAIの得意不得意に差があるときは、社員全員がAIを使えるようになる方法も参考にしてください。
税理士事務所のAIの頼み方:顧問先への資料のお願いを下書きする
ここでは、手順2で試す業務の例として、決算前に顧問先へ送る資料のお願いを下書きする頼み方を紹介します。材料は説明のために作った架空の例です。当社のお客さまの事例ではありません。
頼み方の例
あなたは税理士事務所の職員の補助です。顧問先に送る、決算前の資料のお願いの文を下書きしてください。
【材料】
・顧問先:小売業の法人(3月決算)。社名と担当者名は【顧問先名】【ご担当者名】のまま残す
・お願いしたい資料:通帳のコピー(決算月まで)、売掛金と買掛金の残高が分かるもの、棚卸の結果、決算月に買った10万円以上の物の請求書
・提出の期限:【期限】のまま残す
・送り方:メール
【条件】
・相手は経理にくわしくない社長。専門用語には短い説明を添える
・メールの本文と、資料を準備するときのチェックリストの2つに分けて出す
・税金の計算や判断(経費にできるか、税額がいくらか)は書かない
・材料にない資料を足したほうがよいと思ったら、本文には入れず、最後に「確認したいこと」として質問の形で並べる
この頼み方を、話の流れのない新しい会話で1回実行しました。出力の一部を、文言を変えずに抜き出します。
出力の例(メールの本文の一部と、確認したいことの一部を抜粋)
2. 売掛金(うりかけきん)と買掛金(かいかけきん)の残高が分かるもの
売掛金は「商品を売ったけれど、まだ入金されていないお金」、買掛金は「仕入れたけれど、まだ支払っていないお金」のことです。
3月末の時点で、取引先ごとに「いくら残っているか」が分かる資料をお願いいたします。請求書の控え、取引先から届いた請求書、お使いの販売管理ソフトの一覧などで大丈夫です。
(中略)
■ 確認したいこと
2. 現金の残高(レジや金庫にある現金)の分かる資料も依頼に足したほうがよいでしょうか。小売業で現金売上が多い場合を考えています。
3. クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済の入金明細(決済会社からの入金予定や手数料が分かるもの)は依頼に入れますか。
専門用語の言いかえと、足りない資料の質問が、頼んだ形で出てきました。質問に答えるのは職員で、何を足すかは顧問先の事情を知る人が決めます。
頼み方では、顧問先の名前を【顧問先名】の印のまま残させています。名前を入れずに下書きし、送る前に人が書き戻す形なら、入力のルールの2段目に当てはまる使い方です。
税理士がAIを使うときにつまずくところ
税理士事務所でAIを使い始めたときに起きやすいつまずきは、次の3つです。
・税制の説明を、原典で確かめずに使う
・職員がそれぞれ個人のアカウントで使う
・顧問先からAIの答えを持ち込まれて困る
それぞれ見ていきましょう。
税制の説明を、原典で確かめずに使う
AIが書く税制の説明は、古い年度の内容や誤りが混ざることがあります。改正の多い分野ほど、国税庁の公表資料や条文で確かめてから使ってください。
AIの答えは「どこを確かめるかの手がかり」として使い、そのまま顧問先には出さないのが安全です。
職員がそれぞれ個人のアカウントで使う
ルールがないまま職員が個人のアカウントで使うと、学習の設定や入力した内容を事務所が確かめられません。使ってよいサービスとアカウントを決め、事務所の契約にそろえてください。
ChatGPTで起きた情報漏洩の例と防ぎ方は、ChatGPTの情報漏洩の事例と対策で紹介しています。
顧問先からAIの答えを持ち込まれて困る
顧問先の社長が、AIで調べた税金の答えを持って相談に来る場面も出てきます。答えを頭から否定せず、原典のどこと違うかを一緒に確かめるのが近道です。
社長がAIを使い始めた顧問先には、入力してはいけない情報の話も伝えておくと、顧問先の情報の扱いを守りやすくなります。
税理士とAIに関するよくある質問
まとめ
- 税理士の仕事はAIでなくならず、判断と責任は税理士に残る
- AIに任せるのは、お知らせの文や記録の要約などの下書きと整理
- 税理士法の秘密を守る義務は職員にもかかるため、入力のルールを先に決める
- 学習に使われない設定と契約を確かめ、1つの業務から試す
まずは、この記事の3段階の表を事務所の業務に当てはめ、入力してよい情報と入力しない情報を1枚に書き出してみてください。
自分の事務所ではどの業務から始めればよいか、次の案内も参考にしてください。

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